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「私の家に、新しい家族が来ました。」7





すぐ更新→1ヶ月以上かかった挙句、スポンサーサイトついちまった。





……すんません、しかも今回暴力要素ありです(軽くですが)
年齢制限響かない程度につけたつもりですが、それでも
問題ある場合は、訂正いたします。
とりあえず、男体化とは言え殴りを入れた事には、反省している。






 
 
  ―― 嗚呼、この憎い畜生が。
 





 「……なぁ、遅くない?」
 煉斗が時計を見ると、とっくに約束の時間は過ぎているのが分かる。
 瑠姫が出て行ってからもうかれこれ1時間半は過ぎていた。
 いくら断りのメールを入れたからと言っても、さすがに相手をこれだけ待たすのはシャクである。
 まずい、と言ったような表情で冬摩を見るが、冬摩自身も苦い顔をしている。
 確か、瑠姫は携帯を持っていってない。連絡しようにもする手段がない。
 わざと忘れたのかは分からないが、妹の軽率な行動に若干頭が痛くなる。
 「……もうさ、『今日が無理でもいつでもいいから。』ってメール来たけど
  俺的には申し訳なさ満載だよ。ねーちゃん、もしかして逃げたとか……。」
 「ないと思う。それだったら荷物とか持っていくでしょ。
  手ぶらで家出とか。瑠姫の柄じゃないと僕は思うけど。」
 冷めた紅茶を口にしながら、慎は言う。
 その声は冷静に見えるが、表情は隠しきれないらしい。眉に皺が寄っている。
 コト、とわざと大きく音を立てながらカップを置き、慎は言う。
 「冬摩。どうすんの。
  この責任は、外出認めた君にもあるんだけど。」
 はっきりとした冷たい言葉に、冬摩は更に苦い顔をした。
 自分を見るその目は冷たい。それはそうだろう。
 窓の外を見る。空は灰色の雲に覆われようとしている。
 もうすぐ雨が降る。天気予報は外れはしなかったらしい。
 はぁ、とわざと大きくため息をついた。今日で何度目のため息だろうか。
 仕方ない、と言わんばかりに大げさにソファーから立ち上がる。
 ガタッと大きな音に、一瞬煉斗は驚くもすぐに座り直して冬摩を見た。
 「……迎えに行くか。」
 「だけど、場所は分からないよ。携帯持ってないし。」
 「いや、検討はなんとなく着く。
  多分、いつもの公園だろう……あいつの事だから。」
 冬摩が呆れながら言うその言葉に、慎は思わず笑みが漏れそうになる。
 笑う状況じゃないのにな、なんて思いながらも。
 何だかんだ言って、冬摩も瑠姫に若干甘いのだ。口論する仲であっても、だ。
 煉斗と喧嘩した時でも、よほどの事がない限り冬摩が折れている。
 俺も言い過ぎた。なんて付け足して、ケーキを買ってきたりもする。
 本人も甘いと自覚はしているらしい、鬼になりきれないと落ち込む事もある。
 自分が甘い分、俺は鬼にならなきゃいけない、なんてよく呟いているから。
 だが、それは慎も認める冬摩の長所でもあるのだ。
 仕方なく、といった雰囲気を無理やり出す冬摩。だからこそこの男はからかいがいもある。
 といっても、今はからかう必要はないのでからかいはしないのだが。
 「ったく、帰ってきたらお灸吸えてやるか……。」
 そう憎まれ口を叩いても、バイクのキーを持たない辺り徒歩でのお迎えと見る。
 まぁ、雨で二人乗りは危険。と言う単純な思考からだとは思うが。
 そんな冬摩を、煉斗も何も言わずにただ見送るように見つめている。
 二人の視線に見守られながらも、冬摩は行って来る。と一言だけ呟いてリビングのドアを開けた。




 その瞬間、大きな影が冬摩の方へと倒れてくる。
 いきなり倒れてきた影に、とっさに冬摩は影を受け止める。
 全身にずしっ、と軽い重みが襲う。その姿を見た瞬間目を見開いて驚いた。
 「!!!」
 異変に気づいた二人も、何だと言わんばかりに冬摩の元へと駆けつけた。
 その姿に、まず煉斗が声をあげた。
 「時兎!!」
 煉斗に名前を呼ばれ、時兎はゆっくりと顔をあげる。
 顔には大きくはたかれた後があり、表情は何処かうつろげだ。
 「あ、れんれん……まこちゃんに、とっぴーも……。」
 弱々しく、それぞれの名前を呼ぶ時兎。こんな時ですら微笑みは忘れないらしい。
 口元をぴくぴく動かしながらも、無理やり笑みを作っていた。
 だが慎は、そんな時兎に対して厳しい言葉を放つ。
 「笑うんじゃない。何があったの。
  こんな姿で会いに来るなんて、歓迎できないんだけど。」
 わざとらしく吐くため息、慎の態度は覚悟は出来ていたのだろう。
 その言葉には、がくっと首をうなだれる時兎がいた。
 「あ、あはは……ごめんごめん。
  ちょっとドジっちゃって、俺とした事が情けないよホント。
  ……ほんと、情けな……。」
 笑ったまま弱々しく語る、だけどその目からは涙がぽろぽろ出ていた。
 出てきた涙に、赤いコートの裾でぐいぐいと涙を拭いた。
 「どうした、何があった?!
  いきなり現れて、いきなり俺の目の前で倒れて……
  泣いてないで答えろ!!!時兎!!」
 「ちょ、にーちゃん。そんな言い方……!!」
 ぐ、と頭を支えて怒鳴るように叫ぶ冬摩。
 そんな冬摩の肩を抱えながらも、煉斗は止めようとする。
 しかし、そんな煉斗に時兎は首を横に振るだけだった。
 止めなくていい、そう伝えるように。
 慎もそれを感じ取ったのか、煉斗の触れた肩とは逆の肩にぽん。と手を置き
 「とりあえず、ソファーに運びなよ。
  ……ちょうどいい機会だし、色々聞こうよ。
  どうせ、時兎も話すために来たんでしょ?」
 「…………。」
 分かっていたか、そう悟るように黙り込む時兎。
 冬摩は、若干納得いかなさそうな表情はしていたが小さく頷いた。
 そのまま、時兎の体をゆっくり起こして自らの肩に腕をかける。
 歩幅は遅いが、リビングの中をゆっくり歩いていく。
 そしてそのまま、時兎をソファーへと座らせた。慎はすかさず隣へと座る。
 驚かせないように、静かに、だが。煉斗は、テーブル席の方の椅子へと腰をかけている。
 「冬摩、僕らが尋問しとくから瑠姫迎えに行ったら?
  多分、今の彼ならすんなりと……。」
 「待って。」
 瑠姫を迎えを促す発言に、止めたのは時兎だった。  
 ん?と言ったように煉斗が首を傾げる。
 彼なら止めないだろうと思っていた人物が、止めるとは。
 その問いを尋ねる前に、彼は口を開く。
 「瑠姫、今テンパってる。あいつに会っちゃったから。
  正直、とっぴーが検討している場所にいないと思う。
  あの様子だと、無我夢中にどこかに走っちゃってる。きっと。」
 いつものマシンガントークとは違い、その口調はやはりたどたどしい。
 だけど、嘘を言っているようにも見えなかった。
 だったら尚更探しに行かなければ、……だが。
 「…………。」
 冬摩はそれを聞くと、時兎達が座っているソファーとは別のソファーに座り込む。
 今度はあえて、ぼふっと音を立てて。
 腕は前に組んでいる。見てからに威圧を与えているようにも見えるが。
 だが、今はそうしてでも聞かなければ。
 彼がこう言っている、と言う事は瑠姫に何かあった。と言う事だから。
 それよりも、色々聞きたい事があったと言うのが何よりもの理由だが。
 とりあえず、まずは猫の事も気になったがまず最初に聞くべき事は……。
 「……話せ。さっきお前に何があったか。」
 冬摩の言葉に、時兎は小さく一度だけ頷く。
 部屋は時計の針が動く音、そして少しずつ降り始めている雨の音が響いていた。





 それは数十分前の事。
 時兎は、駆け足で瑠姫達の家に向かっていた。
 今日、子猫をどうするか決める日とは聞いていたから
 せめて、最後に子猫を一目でも見ようと思ったのだ。
 カツカツと靴の音を鳴らして、走っている時兎。
 だが、その表情にはいつものような笑顔はない。
 何処か、思いつめているようにも見えた。
 「(……きっと、もう気づいちゃってるだろうなぁ。
   とっぴーやれんれんはともかく、まこちんはあれでも鋭いから
   俺の事、何かしら注意深く見てたしね。
   俺も俺で、匂わすような発言しちゃったってのもあるけど。
   昔よりかは、鈍ってるんじゃないかって期待しちゃって……。)」
 数年の付き合いだが、時兎は慎の性格をある程度知ってはいるつもりだった。
 専門学校の頃から、自分が何かしら隠し事をするとバレていたから。
 だけど、介入する事はあまりなく遠回しに聞いてきたりはする程度。
 だからこそ、慎には警戒するべきだったのに。
 友人だからと言っても、今回の事とは事情が違う。
 緩く考えていた自分に、何度も何度も渇を入れた。
 信号が赤になり、一度走る足を止める。
 乱れ始めた息を整えつつも、時兎は心の中で呟いていた。
 「(最低でも、アイツの事を踏まえたら
   まこちんは、協力してくれたかもしれないのに。
   まこちんの事だから、瑠姫と関わりがあるなら
   アイツがどんな奴かって事も、知ってるだろう……なのに。)」
 ぐ、と服の裾を握る。思い出したくもない顔を思い出して唇を噛み締めた。
 青に変わった瞬間、再び駆け足になる。
 その間に、何度も人とぶつかりそうになるが避けて行く。
 このペースで行けば、まだ子猫には会えるだろう。
 その時に全てを洗いざらい告白して、子猫にさよならを告げる。
 許してくれないかもしれないが、それでいい。
 詩織にも、事情は話した。きっと瑠姫は落胆するに違いない。
 その覚悟を抱いてここまで来たのに、先延ばしにした自分が情けなくも感じた。
 悔しさのあまり、噛み締めた表情は直らない。
 時兎は、その表情のまま駆け足で家へと向かって行く。





 「え、つまり。今日話すつもりだったの、時兎……。」
 「だとしたら、そのまま行ったらすれ違ってたかもね。僕ら。」
 「……だね。まぁ、その後すぐにそれは潰れちゃったんだけど。」





 その表情はある現場を見てすぐに変わった。
 どんっ、と音を立ててぶつかる身体。
 はね飛ぶとまではいかずとも、バランスが崩れて後ろに倒れそうになる。
 何とか後ろ足で踏みとどまって、ぶつかった相手の顔を見ようとした。
 ……だが、その姿を見ると何も言えなくなった。
 そこにいるのは、泣きそうになっている表情で走り去る瑠姫の姿。
 悔しそうに、そして悲しそうに目を潤ませて。
 両手に子猫を大事に抱えて、ぶつかった事も気にせず走り去っていく。
 当然、時兎には気づいてない。否、気づいていても止まらなかっただろう。
 何事か、と瑠姫が来た方向を向く。
 「…………!!!」
 そこには、今最も会いたくない人物がいた。
 煙草をくわえたまま、その場で尻餅をついたままの状態で。
 見ただけで、状況は理解出来た。一目瞭然だった。
 男も時兎に気づいたのか、驚いた表情から一変して
 へらっと笑った。何処か馬鹿にしているようにも見える。
 やっぱり来たのか。そう言わんばかりの表情だったから。
 目をカッと見開き、時兎は男の下へと歩いていく。
 その表情は、先ほどと違って怒りに満ち溢れていた。
 「……って、めぇっ!!」
 殴りかかりそうな勢いで男に近づき、そのまま首根っこを掴む。
 「なぁんだ、まだいたんだ。
  てっきり帰ったと思って、瑠姫に近づいたってのに……。」
 男は未だへらへら笑ったまま時兎に言った。
 どうやら、男は時兎は旅行で来たと思っているらしい。
 本来の目的は分かっていないらしい。だから近づいたのか。
 「ふざけんなっ!!あんたが危害加えるかもしれないってのに
  帰れるわけないじゃんか!!
  親父から、あんたが最近瑠璃姉の家に来てないって聞いて
  嫌な予感がしてあんたの親父さんに聞いたら……っ!!」
 時兎は、ぐっと殴りそうになる拳を抑えながらも男に言う。
 本当は、すぐにでも殴りかかろうと思ったのだが
 瑠姫の母であり、自分の姉である女性の姿を思い出すと殴れなかった。
 暴力はあまり好かない、優しい人だから。
 ぷるぷる震えるその腕を見て、男はまだ笑っていた。
 「へー、親父言っちゃったんだ。俺がここにいるって事。
  ま、親父は俺に激甘だからね。今回の件だって
  『ちょっと旅行に行きたい。』って言ったらお金出してくれたし。
  ……瑠璃さんにも言っておくべきだったか。ミスったなぁ。
  今回の件が成功したら、きっと瑠璃さんも喜んで……。」
 「……ざけんなっ!! 
  今のさっきまで、また瑠姫を傷つけた癖に!!
  瑠姫泣きかけてたじゃんか、あんたがここにいるって事で
  穏やかに解決してないってのは、一目瞭然なんだよ!!」
 上目で当然かの如くに語る男に、時兎は怒鳴り散らす。
 怒りのあまり、地面に拳を叩き付けた。
 未だすねかじりで、自分の姉の事を諦めていない男にも苛立ったが
 何よりも、姉の事でその娘の瑠姫を傷つける事が許さなかったのだ。
 自分にとっても、瑠姫にとっても枷にしかならないこの男の存在。
 離れようとしても、離れるまいとしがみつくガムテープのような男。
 瑠姫の父である兄とは違って、ふざけすぎた存在の弟。
 兄の事を信頼していたから、尚更この男が許せなかった。
 兄がいないからと言って、何十年も自分の姉を狙うこの男が。
 そして、手に入れたいがあまり瑠姫を傷つけるこの男が……。
 「もう瑠姫に近づくなっ!!
  瑠璃姉にも近づくなっ!!俺らの前から消えてくれよ!!
  あんたは俺らにとって、害にしかなんないんだよォ!!!!!」
 拳を未だに抑えたまま、叫ぶ時兎。
 曇天の空の中、人が少なかったのが幸いだったか注目は集めていない。
 だからこそ叫ぶ、目の前にいるこの憎い対象に。
 無駄だと分かっていても、叫ぶ。
 怒りで我を忘れている事ぐらい、分かっている。
 それだけ、目の前にいる相手が許せないのだ。
 瑠璃の幸せを邪魔し、瑠姫にトラウマを植え付けた。この男が。
 氷柱の家族の幸せを邪魔する、この男が……。 




 「そんな……アイツと会ったのかよ!!」
 「そう言うと、やっぱ皆知ってたんだ。」
 「当たり前だ、瑠姫がここに来た頃からよく聞いてたからな。
  面識もあった。一応な。
  初期印象最悪だったし、ここにアイツを好む奴はいないが。」
 「まぁね、あんな奴好く奴の方がいないっての。
  ……で、時兎はそれからどうなったの。
  こんな状態だから、ただ事ではないってのはわかるけど。」
 「…………。」




 叫んでいる途中、自らの頬に痛みが生じた。
 軽い音ではなく、重い音がその場に響く。
 バァーンッ、と響くその音に、時兎は目を見開く。
 そのまま感じる激しい頬の痛みに、思わず頬を抑える。
 怯んだその瞬間、腹部に頬よりも更に激しい痛みが全身を襲った。
 頬とは違う、握りこぶしで思いっきり腹を殴られた痛みだった。
 避ける事も出来ず、もろに食らったその拳に思わず小さく唸った。
 殴られた衝撃で、今度は時兎が尻餅をつく。
 げほっと大きく咳き込む時兎に、男はずいっと顔を近づける。
 その表情は、先ほどまでのへらへら笑いと違って睨みつけるような表情だ。
 「害、だぁ?んなもん、利か害かは俺が決めるから
  んな事言われたって、納得できるわけねぇだろ。
  オマエが俺を害ってんなら、俺はオマエが害でしかねぇ。
  まだ経験もねぇおこちゃまが、大人の邪魔してんじゃねぇよ。」
 煙草の灰が、服にかかりそうになる。だがそんなの相手にとってはお構いなしだ。
 吸っていた煙草の紫煙を、思いっきり時兎に吹きかける。
 目の前に広がる紫煙、口臭と重なって異臭が漂う。
 苦しそうに咳き込む時兎。彼が煙草を知っていて尚やっているのだ。
 「大体なぁ、俺の両親は瑠璃さんと結ばれる事を待ってるワケ。
  むしろ兄貴と早く縁切って、俺と再婚して欲しいって思ってるワケ。
  親孝行としてやってんの、瑠璃さんだって何も言ってないでしょ。
  いつも瑠璃さんは瑠姫が認めてくれるから、って言うから。
  俺は一生懸命やってんだよ。認めてくれるように。
  それなのに、アイツは未だに昔の事をネチネチと……。」
 ちっ、と舌を打った後わざとらしく近場に唾を吐く男。
 昔の事、がトラウマになっているのには気づいているのだろう。
 人から見ると「ただ不器用な男。」にも見えなくはない。
 だが、それならそれで無理やりな方法はとらないはずだ。
 こいつは不器用なんかじゃない、ただ私利私欲に溺れているだけの最低最悪男。
 それを知っているからこそ、時兎は胸糞悪くて仕方なかった。




 「……まだ諦めてなかったのか。」
 「本当にしつっこい、ネチネチして気持ち悪い……。」
 「俺も、話だけしか聞いた事ないけど本当にやだわ。
  関わりたくない。」
 「と言うか、僕も関わらせたくない。
  大事な弟を、あんな男の毒牙にかけるわけにはいけないし。」
 「……慎、それは今関係あるのか。」
 「はは、まこちんはそう言うトコ相変わらずだね。ホント。」




 痛む腹を抑えながらも、睨み付ける。
 今の状態だと、ほとんど効果はないかもしれないけれど。
 屈服なんてするもんか、手なんて出されたら尚更。
 「……子猫を狙ってる辺りで、一生懸命とかそんなのないだろ。
  どうせ、脅そうと思って来た癖に。よく言うよ。
  ……それに、瑠璃姉は、あんたの事嫌いだよ。
  あんたが瑠姫を傷つけてから、本心で笑わなくなっただろ。
  瑠璃姉は、そう言う人だ。そんな人と……結ばれるはずなんて。」
 抵抗と言わんばかりに呟く時兎に、気に食わなかったらしく
 思いっきり額に向かって、自らの頭を叩きつける男。黙れ、と言わんばかりに。
 ガンッ、と言う強い痛みに一瞬意識が朦朧とした。
 頬を叩かれ、腹を殴られ、そして頭突きされる。
 人から見たら、暴力行為だ。人が少ないのをいい事にこいつはやっているのだ。
 今までは、印象が悪くなるからと言って絶対手は出さなかったのに。
 それだけ、余裕がないのだろうか。その表情に余裕はないようにも見えた。 
 「……てめぇはいつだってそうだ。
  女々しい柄してる癖に、そんなとこはいっちょ前に発達しやがって。
  生意気なんだよ。てめぇは黙って祝福すりゃあいいんだ。
  あのモヒカンや、ロン毛野郎みたいに力もねぇ癖に……。
  最近は、結婚なんてしやがって更に近づきにくくなるしよ……。」
 ロン毛やモヒカン、と言うと慎や冬摩の事を言っているのだろう。
 悔しがる様子を見て、相当手を焼いているらしい。
 特に慎の事を知る時兎にとっては、それはそうだろうと思っていた。
 慎は、気に入った物に関してはとことん譲れない何かを抱いているから。
 今となっては、瑠姫より煉斗に抱いているような気もするのだが。
 それに、今は瑠姫には大切な旦那がいる。
 殆ど会話はした事はないが、誠実なその人柄は時兎も認めている。
 だが、それは今はどうでもいい話。悔しがる男に時兎は言った。
 「それだけ、瑠姫には人望が、あるんだ。
  あんたと違って、あんたなんかと違って、さ。
  ……あんたなんかに、あの子猫も、瑠姫も渡さない。
  瑠璃姉を、渡さな……。」
 朦朧とする意識の中、たどたどしく言うその言葉。
 まだ言うか、と言わんばかりの表情で相手が途中で腕を上げたのが分かった。
 黙れ、と言わんばかりに叫んで。先ほどの自分と同じように。
 嗚呼、きっとまた殴られるのだろう。今度は何処を殴られるんだろうか。
 早く、瑠姫を追わなきゃいけないのに。こんな所にいる暇なんてないのに。
 振り上げられる拳を見つめながらも、時兎は食らう覚悟を決めて、目を瞑った。




 「抵抗は、しなかったんだ。」
 「……手は上げたくなかった。瑠璃姉さんは俺にいつも言ってたから。
  きっと、アイツがそう言うとこあるし、アイツを殴っても
  アイツの親が煩いって分かってたんだろうと思う。」
 「だね、多分色々いちゃもんつけそうだ。」
 「でも、その後殴られたならもっと怪我してるはずだろ。
  それに、歩けるはずもないと思うけど……。」
 「ああ、それはね……。」





 だが、いつまで経っても拳の感覚はなかった。
 恐る恐る瞼を開く、意識は少しずつはっきりとしていた。
 目の前にいる男は、先ほどと違って苦しそうに声をあげている。
 否、まず目の前に顔がなかった。顔は遠く自分が見上げるような態勢になっている。
 ギリギリと後ろに捻られる相手の腕、振り払おうにと振り払えない。
 男を締め上げるその男性の顔は、無表情だが冷たかった。
 いつも穏やかな表情を浮かべるのが印象的だった、その男性の顔を見て一瞬震えそうになる。
 離せ、離せよぉ!!と男が叫ぶ。だが離そうとしない。
 むしろ、更に拍車をかけるように腕を強く捻った。下手したら折れるぐらいに。
 「あ、え、……あ、あ……。」
 何かを話そうにも、何も言葉が出てこない。
 それだけ、目の前の現状に驚きを隠せない。いつのまにここに現れたのか。
 時兎の小さな声に気づいたのか、男性は時兎に問いかける。
 「……大丈夫か。」
 その言葉は、穏やかだが何処か平坦だった。 
 心配はしてくれているのだろうが、腕は未だ男の腕を捻ったままだ。
 折れるか折れないかのギリギリの辺りで、捻っているのだろう。
 もしここで折れたら、過剰障害になると分かっているから。
 手馴れているようにも見える男性に、時兎は小さく頷く事しか出来なかった。
 頷きを確認した男性は、今度は男を冷たく見つめて言った。
 「……諦めが悪いな、あんたも。
  俺達が子猫の件に気づいてないからって、調子に乗って手に出たか。
  ……愚かだな、本当に。どうしようもない。」
 淡々と話す男性に、男は痛みからガタガタ震えながらも男性を睨み付ける。
 男性はふん、と小さく鼻を鳴らした後、振り払うように腕を離す。
 未だ残る捻られた痛みに、男は身をよじって痛みを訴えた。
 近くのベンチの座席部分に、頭を預けながらも。
 その瞬間、新たに今度は男の足に痛みが走る。足と言うよりつま先なのだが。
 先ほどの痛みとは違うまた違う痛みに、ガッと苦しそうに唸った。
 「ほんっと、バカよね。
  しかも暴力に出るなんて。最低。
  私、あんたみたいな男は大嫌いよ。あ、知ってるかもしれないけど。
  だって、私らがいる限り……あんたは近づけないものね。」
 男の足を踏んだ主は、冷たく男を見下すように見つめながら言った。
 男性の行為に関しては、一切咎めずに、だ。
 いつもは仕事に関しては真面目だが、プライベートで話すと結構フランクなイメージがあった。
 そんな彼女が、今は男に対してきつい目線を送っている。
 冷たい目で見つめる男性と女性、痛みのあまり悶え苦しんでいる男。
 時兎は、その様子を呆然としながら見つめていた…………。






 そして、今の時間に戻る。
 軽く言葉を交えつつも、時兎は語り終えると一息ついた。
 信じられない、といった表情で煉斗は時兎を見つめている。
 慎も、珍しく驚きを隠せないようで目を丸くして時兎を見ていた。
 と言っても、今さっきの話なのだが。それまでは普通に聞いていたのだ。
 だが、男が腕を捻られた辺りから目を丸くしていた。
 薄々、考えてはいたのだがあえて冬摩にも言わなかった事。
 内心、もしかしたらバレているかもしれないとは思っていたが
 少し感づいているぐらいだろう、と考えないようにはしていた。
 現場にいた男と女、知らない人が助けてくれたとは一言も発していない。
 と言う事は、時兎も知っている、面識もある二人と言う事になる。
 話を聞く限り、腕を捻った男は男より身長が高い。
 男も結構身長があるから、それ以上身長がある知り合いなんて一人しかいない。
 「ね、時兎。ちょっと聞きたいんだけど。
  腕捻った男性と、足踏んだ女性って、もしかして……。」
 慎が尋ねようとした矢先、わざとらしくリビングのドアが音を立てて開かれた。
 その音に、その場にいた全員がドアの方を向く。
 ほぼ全員が、その姿を見て唖然としていた。
 時兎自身は、来る事を知っていたのか何も言わずただ見つめていただけなのだが。





 「そう言う事よ。慎。」
 そこには、呆れた表情の詩織と聖がいた。



  
 
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Author:myuu-0240
AnAnやQMA等、アーケードゲームに侵食されている

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